信用取引を学んでいく内に、貸借取引という言葉に出会います。
「ちょっと待ってよ!こっちは信用取引を知りたいんだ!他の取引は興味ない!」という声もひょっとしたら聞こえてきそうです。あなたはどうですか?やっぱり同じように思われます?
確かに信用取引を学んでいる途中で同じ「取引」という言葉が出ると「え?何それ?!」という感じになるでしょう。少なくとも、『同じ「取引」という言葉が付いてるのに名前が違うということはやっぱり違うものなのかな?だとしたらどう違うの?』という疑問は抱かれたでしょうね。
この記事では、貸借取引とは何か、信用取引とはどう違うのか、そして貸借取引が信用取引とどう関わっているのかについて解説していきたいと思います。
貸借取引の前に知っておいて欲しいこと
『制度信用取引と一般信用取引の2つの違いとは?』で、信用取引には「一般信用取引」と「制度信用取引」とがあるというお話をしました。賃借取引はこの「制度信用取引」の理解が不可欠ですので、制度信用取引について良く分からない人は是非読んでみて下さいね!
信用取引は買いから入ることも出来ますし売りから入ることも出来ます。
買いから入ってまだそれを決済していない場合もあるでしょうし、売りから入ってまだそれを決済していない場合もあるでしょう(信用取引の決済については『信用取引の決済方法について(反対売買、現引、現渡)』で確認出来ます)。
まだ決済していないということは以下のような状況を意味します。
買いから入った人は「まだ上昇すると思い(願い)」、「いつかは売ります(決済で反対売買を選んだ場合)」。
売りから入った人は「まだ下落すると思い(願い)」、「いつかは買い(買い戻し)ます(決済で反対売買を選んだ場合)」。
このような、買いから入ってまだ決済していない株数を「買残」、売りから入ってまだ決済していない株数を「売残」と言います。買残・売残は、証券会社で信用取引口座を開設すれば見ることが出来ます。
ですが、実はYahoo!ファイナンスでも確認することが出来ます(口座開設していなくてもこういった情報・データが今後の値動きにどう影響するのかを学ぶのに、こういったサイトは大変重宝します!)。
この記事は2015年12月のものですが、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ(東証1部・8306)の信用取引情報を見てみることにしましょう。
銘柄毎の信用取引情報は、各証券取引所が銘柄の信用取引残高を集計して、毎週1回7営業日遅れで発表されます。
信用取引情報で集計される株数は一般信用取引と制度信用取引の合計です(証券取引所が自らの基準で制度信用取引銘柄として採用し、それと同じものを各証券取引所が自らの基準で一般信用取引銘柄として採用すれば、その銘柄は一般信用取引と制度信用取引で売買出来ます)。
ここでは「賃借比率」と表示されていますが、これは「信用倍率」とも「取組倍率」とも呼ばれ、「買残÷売残」で計算します(買残・売残、信用倍率の見方については『ヒントが詰まっている!信用買い残・売り残、信用倍率の見方』で解説しています)。
上記の(株)三菱UFJフィナンシャル・グループはこの時点で買残が80,93,800株、売残が3,872,300株です。買残が多いですね。
信用取引は証券会社からお金を借りたり株式を借りたりして取引をしますよね?
自分の資金量の約3倍で売買出来ます。そのお金は証券会社が貸し付けます。
証券会社だって資金が無尽蔵にあるわけではありません。証券会社はどうやって資金を調達しているのでしょうか?
もうひとつ、(株)NTTドコモ(東証1部・9437)を見てみましょう。買残が866,200株、売残が1,258,300株です。売残が多いですね。
投資家に貸し付ける株式は、売りと買いが全く同じ株数なら問題ありません。その証券会社だけでまわせます(まかなえます)。
それは、本来、信用取引は買う側と売る側の注文を相殺しているからです。
XさんがA社の株を1000円で1000株買ったとします。YさんがA社の株を1000円で1000株売ったとします。
このケースでは証券会社はXさんに100万円を貸し付ける必要がありますが、この100万円はYさんから調達し、Yさんへ貸し付けるA社の1000株はXさんから調達してYさんに貸し付けるというやり方をします。
このようにバランスがとれている間はお互いに片方から調達するので問題はないのです。
でも(株)NTTドコモのように売残が多い場合、疑問が湧いてきます。というのも、信用取引は売りから入る場合、投資家は「株式を借りて売る」のでした(この辺は『審査で落ちる?信用取引の口座開設条件と審査基準』・『信用取引の決済方法について(反対売買、現引、現渡)』を参照して下さいね)。
買いよりも売りの方が多いです。……証券会社は一体どこからこの株式を調達するのでしょうか?
証券会社も自前で株式を持っていますが、売りが多い場合は調達しないといけなくなります。
貸借取引はこんな取引です
この答えは、『証券会社は、「証券金融会社」というところから株式や資金を調達する』です。
『制度信用取引と一般信用取引の2つの違いとは?』で「一般信用取引においては原則として売りから入ることは出来ず、制度信用取引の場合は貸借銘柄については売りから入ることが出来る」と説明しました。
信用取引の売残の中には当然この貸借銘柄の売残も入っています(一般信用取引で売ることが出来る場合はその売残もカウントされています)。
証券会社は、制度信用取引での「資金や株式」に関しては、証券金融会社から融通します。この「制度信用取引における証券会社と証券金融会社との間で行われる取引」を賃借取引と呼ぶのです。
より詳しく見ていきましょう。
証券会社は顧客から注文を受けると、自己調達出来ない資金や株式を証券金融会社から調達します。この時の「投資家(証券会社の顧客)と証券会社との取引」は、今まで説明して来た「制度信用取引」です。
そして「証券会社と証券金融会社との取引」が貸借取引となります。
投資家と証券会社の取引 |
証券会社が投資家以外から調達 |
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投資家 |
→ |
制度信用取引 |
← |
証券会社 |
→ |
貸借取引 |
← |
証券金融会社 |
→ |
一般信用取引 |
← |
→ |
自己調達 |
← |
貸株市場 |
投資家は証券会社に委託保証金を差し入れて制度信用取引を行います。
証券会社は証券金融会社に「貸借担保金」を差し入れて貸借取引を行います。
証券金融会社は証券会社から借入の申込みを受けると、証券取引所の決済機構を通じて貸借取引を行います。
株式が不足している場合は証券会社が証券金融会社に株式の借入を申込み、これを受けた証券金融会社は証券取引所の決済機構で株式を売却します。この際の売却代金(貸株代り金)は担保として証券金融会社が預かります。
更に売りが膨らみ、証券金融会社でさえも証券会社に貸し付けることが出来なくなった場合はどうするのでしょうか?
この時、証券金融会社は銀行・保険などの機関投資家から借りるのです。ここまで行くとさすがにそのコスト(貸す側も貸しておしまいではありませんからね)を誰かに負担してもらわなければなりません。その仕組みが逆日歩なのです(逆日歩については『信用取引の金利・貸株料・逆日歩の計算方法』で詳説しています)。
貸借取引には当然金利が発生します
借りるということは当然金利が発生します。
融資金利
証券会社が証券金融会社から資金を借りる場合、証券会社が証券金融会社に金利を支払います。この時の金利は「融資金利」と言われます。
貸株代り金金利
証券会社が証券金融会社から株式を借りる場合、証券金融会社が証券会社に金利を支払います。この時の金利は「貸株代り金金利」と言われます。
直前で触れた逆日歩を含め、信用取引において諸々のお金を支払わなければならないのは(逆日歩はそれが発生した時だけ払わなければならないだけで、空売りしたからといって必ず支払わなければならないわけではありません)、こういった金利への対応が必要だからです。
まとめ
いかがでしたか?
貸借取引とは証券金融会社と証券会社との間で行われる取引であり、取引の内容は「必要な資金や株式を貸す・借りる」というものであって、それは制度信用取引における証券会社と投資家の取引と変わらないですよね?必要なものを融通するために担保を提供して調達するという部分では変わらないのです。
取引制限が出れば別ですが、そうでない限りは必要なものを調達して貸さないと信用取引自体が出来なくなります。
貸借取引、貸し借りの取引……制度信用取引で「売ることが出来るのは貸借銘柄」と『制度信用取引と一般信用取引の2つの違いとは?』で解説しました。
そうです、(証券会社が手持ちがなくなった時に)貸借取引で株式を調達するからこそ賃貸銘柄は売ることが出来るのです。