信用取引は信用取引口座を持っている投資家の「信用」を基にして、証券会社がお金を貸したり株式を貸したりすることで「多額のお金で運用する」ことが出来たり「売りから入る(空売り)」ことが出来ます。
信用取引の決済方法については『信用取引の決済方法について(反対売買、現引、現渡)』にて解説していますが、それは結局のところ、反対売買という売買の基本と「証券会社が何を投資家に貸しているか」を見ることによって自ずと見えて来るのですね(実際『信用取引の決済方法について(反対売買、現引、現渡)』ではこの視点で信用取引の決済方法について解説しています)。
レバレッジという言葉があります。「てこの原理」のことです。
信用取引について言えば、自分が持っている資金とは別に証券会社からお金を借りることで「小さな力(自分が持っているお金)で、(証券会社からお金を借りることによって)大きく動かす」ことが出来るのです。
信用取引のデメリットとは何でしょうか?
お金や株式を借ります。借りているものは返さなければなりません。レバレッジが効くので利益は大きくなりますが損失も大きくなります。
大きなお金を動かしたり売りから入ったりすることが出来る……利益にしても損失にしてもきちんと決済をしていかないと信用取引のメリットがそのままデメリットになります。
この記事では信用取引のデメリットについて「金利」・「追証」・「破産」という3つのキーワードで解説していきます。
金利
貸すといっても、最初に貸しただけで決済までは好きにして良いよというわけではありません。貸す以上、金利が付きます。証券会社としては金利を付けることで貸している間も有利になるようにしています。
借りたものはいつ返しますか?……そう、決済の時です。だから金利は決済まで掛かります。そして決済の時に金利をきちんと支払わなければなりません。
売りから入った場合も金利を支払うことになります。売りから入る場合は売る株式を借りることになり、貸株料として日割りで計算されます。また逆日歩というものが発生するとその金額も支払うことになります(これらの金額の計算方法は『信用取引の金利・貸株料・逆日歩の計算方法』にて解説しています)。
信用取引は、「借りたものを返す、取引に関わる手数料を支払う、金利を支払う」という構造になっているのです。信用取引の際は現物取引とは違って、手数料だけでなく金利についても頭に入れて取引をしましょう。
追証
「追証」は「おいしょう」と読みます。冒頭にも書きましたが、信用取引は投資家の信用に基づいて証券会社がお金や株式を貸すことで成り立ちます。
この信用とは何でしょうか?
『審査で落ちる?信用取引の口座開設条件と審査基準』で信用取引は審査があると書きました。「資金はどれくらいですか?投資経験はどれくらいですか?」などといった質問にアンケート方式で回答していくという比較的簡単なものであり、その回答のみで合否が決まると解説しました。
審査に合格して信用取引口座を開設したとしましょう。「設問に答えただけで」・「審査に合格した」だけで貸してくれるのでしょうか?そこまで証券会社もお人好しではありません!
信用取引では「信用」のために「担保(保証金)」を預けなければならないのです。もしもの時に備えて何かを担保にして貸すのです。ではその担保は何でしょう?それは「保有株」か「現金」です。これを預けなければなりません。
新たに取引を始める場合は、自分が買うなり売るなりしようとする銘柄に対して一定割合の委託保証金が必要となります。証券会社によってまちまちですが、大体が売買しようとする銘柄に対して30%以上を預けなければなりません。
例えば100万円の売買をしようとする時、30万円は預けてねということです。
30万円を預ければ100万円の取引が可能となります。レバレッジについて、色々なところで「自己資金の3倍の資金で取引出来る」というのはここから来ています。つまり、30%を差し出せば、それを担保として残りは証券会社が貸すということなのです。
同時に多くの証券会社は、「最低でもこの割合は維持しておいてね」という委託保証金維持率というものを20%を目安にして設定しています。
上記「100万円の売買」をするとすれば、30万円の自己資金で100万円の売買をし、「最低でも20万円はキープ」しておかなければならないということです。
もし、この取引で10万円の含み損が出たとします。そうすると自分の資金は30万円で含み損が10万円、100万円の売買をしているので(30-10)÷100で0.2となり、20%です。更に下落して、その時の含み損が15万円だったとします。そうすると(30-15)÷100で0.15となり、20%を割り込みます。
最低でも維持しなければならない割合を下回った以上、補てんしなければなりません。
「追加」で「保証金」を入れて下さい……これが「追証」です。
「30%を担保にすること」でこの取引が出来ているわけですから、30%を満たす金額を証券会社に支払わなければならないのです。
「(売買したい対象の)30%は差し出して。残りはこちらが貸し付ける。でも20%は最低でも維持して。それさえ維持出来なければ30%になるように不足分を払って」ということなのです。
実際に20%を割ったかどうかは終値ベースで決められます。上記の例では、市場が開いた時は含み損が20%を割っていなくても終値で見たら15万だった場合、追証が発生し、不足分(15万円)を支払わなければならないのです。
この金額を差し出せば20%は割っていません。でもまた含み損が膨らんだらどうでしょう?そのときもまた追証が発生するのです。
追証の仕組みを話しました。これが基本事項です。もう少し複雑なケースを考えてみましょう。
担保は現金以外にも保有株があると説明しました。さきほどの自己資金30万円で100万円の売買をした場合に含み損が10万円となったら(30-10)÷100で0.2と話しました。
この計算は、
(自己資金 – 含み損)÷売買代金
が原則です。
もし自分の保有株も担保とした場合はどうなるでしょうか?これにはもうひとつ、知っておかなければならないことがあります。
それは「掛目率」という概念です。
株式そのものは現金ではありません。その時々によって価値が変わり、現金で換算した場合も変わってきますよね?
保有株の時価に対して掛目率をかけたものを現金としての価値とする」という風に覚えておいて下さい。掛目率とは現金としての価格を決める現金換算率なのです。
そうすると保有株も担保にした場合は、
(自己資金 + (保有株の価格×掛目率) – 含み損)÷売買代金
となります。
株式は現金そのものではありませんし価値が(株価によって)変動します。その時々で掛目率も変動します。極端な話と思われるかも知れませんが「0%」もあるのです。
つまり、「現金としての価値が全くない」ということです。上記の式を見ればお分かりのように、0%になれば一気に分子が小さくなり20%を割る可能性が高くなることは火を見るより明らかでしょう。
保有株の株価が上がれば得になりますが、保有株の株価が下がればその分損をします。掛目率が0%なら保有株の株価に関係なく自己資金のみで計算することになります。
信用取引での含み損が大きくなると同時に保有株の株価の下落が起きると二重で痛い思いをしなければならなくなります。
追証が発生した場合、翌々営業日までにその追証を入れなければ(払わなければ)なりません。そのお金がない場合はその保有株を証券会社が自動的に売却して返却に充てます(強制決済)。
土日祝日をまたいで保有している場合、もしその営業日でない間に何かが起きたらどうしますか?市場が休みでない場合でも、突発的な事件事故が起きたらどうしますか?
含み損は出来るだけ減らしたいものです。だから含み損が減る方向に株価が動いてくれることを願いつつ、それでもどんどん含み損が大きくなることは良くあります。そして何かが起こって予想出来なかった大幅な価格変動が起き追証になった……そういう体験談はネットで探せばすぐに見つかります。
追証発生は資金の面は勿論のこと、精神的にも負担が大きです。委託保証金率や掛目率は常に頭に入れておかないといけません。
そして機械的に損切りをすることです。損切りは「ロスカット」とも言います(というよりロスカットが損切りという感じですけどね)。損失をカットして資金の減少を防ぐ行為なのです。
デイトレードで株式投資をする人は資金が全てです。感情に流されず、機械的に損切りをすること……そういった感情のコントロールが資金のコントロールに繋がるのです。
破産
あなたの資金が100万円であったとします。
「よし!運用額の半分の損失が出たら損切りしよう!」と決めていたとします。
現物取引だと、その手持ちの資金で売買するので、100万円の半分である50万円を損切りしてもまだ残りの50万円は手元にありますよね?!元手の100万円に対し、損失は50万円、あなたにはまだ50万円が残っていて借金もありません。
信用取引はレバレッジが効きます。3倍の資金で取引出来るとします(実際、証券会社では資金の3倍で投資をすることは可能です)。
100万円の3倍は300万円であり、半分は150万円となりますね。150万円を損切りしました。損失は150万円です。あなたの資金は最初100万円でした。……あれ???そう、あなたは資金を全て失い、さらに50万円の借金を背負うことになるのです。
これが、「元手以上のお金でレバレッジを効かせて売買すること」の本当の怖さなのです。
もし「運用額の半分の利益が出たら利益確定しよう!」ならば、150万円の利益となり、あなたの資金は250万円となります。
「利益も損失もレバレッジの分だけ大きい」のです。レバレッジが効くことで大金を得ることにデメリットを感じる人はいないでしょう。だけど売買は買うか売るかであって、利益は最初間違えればそのまま損失になります。
最初の二者択一の選択をどちらにするかで利益にもなるし損失にもなるのです。信用取引で売りから入った場合、制度信用取引と呼ばれる取引で売った場合は、返済期限が決まっていて期限までに必ず決済しなければなりません。現物取引のように「塩漬け」にすることすら出来ないのです。
まとめ
信用取引の仕組みを知れば知るほど複雑さが分かってきます。証券会社がお金を貸したり株式を貸したりする以上、証券会社もそれらが回収出来なくなった場合を考えているのです。
信用取引で利益を出せるトレードでも、お金を借りたり株式を借りたりしているだけで金利・貸株料(場合によっては逆日歩)を支払わなければなりません。
信用取引のようなレバレッジが効く取引、例えばFXや日経225先物で巨額の利益を得た人もいれば巨額の損失を被った人も沢山います。
巨額の利益を得た後に巨額の損失を被った人もいます。でも、「巨額の損失を被った後に巨額の利益を得た人」というのはなかなかいません。動かすお金である資金(軍資金)がなければ更なるお金を生めないし、破産してしまったらその後の人生でさえ大きく狂うのです。