非課税枠が毎年新規に追加されていき、株式運用や投資信託での売却益・配当金・分配金が課税されないNISA、これだけならとても良い制度ですね。でも非課税ということは税金を徴収出来ないわけです。本来であればこういった利益は課税対象であり納税しなければなりません。
納税する側から見れば「本来納税しないといけないものが納税しなくて良い」ということになります。
徴収する側から見れば「本来徴収出来るものを徴収しないとする」ということになります。
一方のメリットが他方のデメリットになる……国家運営の財源のひとつである税金をこのような形で徴収しないことは国家にとっては大きなデメリットです。
制度の受益者側にとって「利益だらけ」なんて制度は福祉などの社会政策上の制度ならあるでしょうけど一般的にはありません。NISAにもデメリットは当然あります。
この「NISAのデメリット」は、国が「不利益を負担してでもNISAという制度を実施するメリット」を考えれば見えて来ます。この記事ではそういったことを見ていきながらNISAのデメリットについて見ていきたいと思います。
「超」預金大国:日本
金の金融資産に占める割合が諸外国と比べて突出しているのは日本くらいのものです。「お金が動かなければ経済発展はない」のですから、いかに国民が多くのお金を持っていてもそれが預金ばかりでは意味がありません。
2003年1月から5年間の時限措置として始まった軽減税率も延長が行われましたが、2013年12月に打ち切られました。
こういった事情を踏まえて、政府は金融資産を預金から株式投資へシフトさせ、更なる経済成長を企図する意図でこのNISAをはじめることにしたのです。政府広報オンラインには
「貯蓄から投資へ」の流れが促進されることで、家計から企業への資金供給が拡大し、経済が成長するとともに、家計も潤い、さらなる投資につながるという好循環を生み出す、という意義もNISAには期待されています
とあることからもそれが伺えますね!
企業側の事情
株式投資は株式を対象に売買しますが、そもそも株式会社は株式を発行して資金を集めるという営利法人です。
個々の売買が資本金に直結するというわけではありませんが会社自体は資金が多く集まった方が良いですよね?中長期的に保有してもらう方が都合が良いのです。
こういった事情からNISAのデメリットを考える
・非課税枠には上限がある
預金を株式投資にシフトさせることを目的としても、上限なしに非課税にしては税収が極端に落ち込みます。そこで第一のデメリットとなるのが「非課税枠には上限がある」ということです。2015年12月現在では上限は100万円です(2016年からは120万円になります)。
この100万円を大きいと見るか小さいと見るかは人それぞれですが、もし少額と見るならば、NISAが元々「少額投資非課税制度」なので少なくても仕方がありません。
この枠を高くすると多くのお金が動くでしょうが税収が落ち込みます。大金を投じるのは従来から取引をしている投資家でしょうし、投資をしたことがない人でも投資に向かせてお金を動かせるということから遠ざかります。
NISAを広めて「自分もやってみようかな?!」と思ってもらうにはある程度誰でも手が出せて敷居が低いものでなければなりませんから非課税枠に上限を設け、その額を少額にしているのです。
・非課税枠は使い回せない
NISA口座で保有した銘柄はいつでも売却出来ます(そしてその売却益に税金は掛かりません)。ですが、売却したからといってその銘柄を購入したお金をまた非課税枠の中に組み込むことは出来ません。
100万円の内、30万円で購入した株を売却したとします。この状態では70万円が非課税枠であって30万円は消費しきった状態なのです。
極端な話をすれば、100万円の非課税枠を目一杯使った状態でその株を売却すると、もうその年は非課税枠となる株を購入出来ないのです。
これがもし「売却によって復活する」としたら、あなたならどうしますか?何度も何度も取引を繰り返したりしませんか?私ならそうします。
これによってお金は動くでしょうけど、結果的に何度も取引されてしまい、それらがたくさんの売却益を得ていたとしたら全て課税出来なくなります。現実的ではないですよね?
・非課税枠を繰り越すことは出来ない
NISAは非課税枠が毎年追加されていきますが、ある年で使っていない非課税枠を来年に追加される非課税枠に加算することは出来ません。
もし累積出来るとしたらどうなります?以下は出来るものとして話を進めてみますね。
150万円で購入出来る銘柄があったとします。この銘柄はチャート分析で100万円を切らずに底打ちを繰り返しているものだったとします。
「安い時に買おう!100万円は切らないけど近くに達したら買いを入れる。NISAも開設して二年目だから累積して200万円が非課税になっているのでその時に買うぞ!」と思うのではないでしょうか。
非課税枠に収まるのなら「待ちますよね?」……だって「休むも相場」だし、非課税なのですから!
預金を投資にシフトさせるつもりがこのように「枠を貯めるまで待つ」という使い方をされたらその目的を達成出来ません。非課税枠を繰り越して累積出来ないようにさせているのはこのような理由からです。
・他の口座と損益通算出来ない
一般口座や特定口座を開設していて、それなりの利益があったとします。このような課税口座は「課税されるけど上限なし」なので利益も大きくなることは十分あります。利益と課税額は比例します。
だからNISA口座でマイナスだった場合、そのマイナスを課税口座での利益と相殺させることが出来てしまったら「徴収出来る税金が減る」ことになるのです。
まして、「損益通算して利益が20万円(2015年12月現在)を超えない額になった」なら、徴収出来る税金はなくなってしまいます(この辺のことは『株は「売却益」や「配当金」に対して何%の税金がかかる?』・『株の税金対策!損益通算と譲渡損失の繰越控除』・『サラリーマンが株式取引で利益が出たら確定申告は必要!?』で詳しく書いています)。
このような事情からNISA口座でのマイナスは課税口座と損益通算出来ないのですね。
・繰越控除が出来ない
損益通算が出来ないのと同じ理由で、繰越控除も出来ません。
マイナス分を翌年以降に繰り越せたら損益通算と同じ事態が起きかねないのです(この辺のことも『株は「売却益」や「配当金」に対して何%の税金がかかる?』・『株の税金対策!損益通算と譲渡損失の繰越控除』・『サラリーマンが株式取引で利益が出たら確定申告は必要!?』で詳しく書いています)。
・移管した時に基準値が変わる
NISA口座で保有している銘柄・株式投信は、5年が過ぎた場合は一般口座や特定口座などの課税口座に移管出来ます。
この時、NISA口座で購入した時の株価が変わるのです。
『NISA口座で1000円で購入した銘柄を移管した時、株価が500円だったとします。その後750円になったとしてそこで売却したとします。本来であれば1000円で購入して750円で売却したので250円の損失ですが、移管時が基準となるので「500円で購入して750円で売却した」ことになり、250円の利益となってその売却益が課税されます』
ということが普通に起こり得るのです。
長期保有が目的ならまだしも、含み損が含み益に代わって欲しいことを願いつつ塩漬けしている場合、このような「基準の変更」によって「損切りのつもりでも含み益があることになる」ようにすれば課税出来るわけです。
・ロールオーバーの罠
NISAが始まってから2023年までの10年間は毎年新たに100万円の非課税枠が追加されます。非課税となる期間はそれぞれ最大5年間です。
この時、例えば2015年に取得した銘柄は非課税期間は5年なのですが、これを2020年に新たに追加される非課税枠に移管することも出来ます。これをロールオーバーと言います。
ロールオーバーする時は最大100万円が限度であり、それを超える場合はそもそも移管出来ません。
こうすることで非課税枠を限定させて、ロールオーバーがダメなら売却か課税口座に移管させることで徴収機会を増やそうというわけです。売却の場合は元々が非課税枠なので課税されませんが、移管の場合は上で見たように課税されることがあります。
あくまで非課税枠を上限付きで限定的にしておこうというわけですね。100万円を超えてもロールオーバー出来るなら、その分税金の徴収という面では痛いのです。
尚、ここでも言えることですが、非課税枠は2016年からは120万円になります。またロールオーバーする時は、その年の非課税枠が上限となります。
以上を見てみると、「早く手放したらもったいない・意味がない」という「縛り」があるという一面も垣間見ることが出来ますね。
結局それは保有期間を長くし、企業にとっても旨味のあることなのです。
まとめ
制度設計をする時は、双方のメリットとデメリットを天秤にかけますよね?!
今回で言えば、国のメリットとNISAをやろう・やっている人のメリットがあり、他方のメリットはもう他方のデメリットになります。
100万円を上限に非課税というのは実はとても大きいのです。
100万円に収まるのなら、それで得た売却益がどれだけ大きい額であろうと非課税なのです。課税対象となる商品購入時の上限はあっても、それから得られる利益には制限がないのです。理解してもらえるように極端な例を持ち出しますが、「50万円で購入した銘柄が1000万円になっても課税されない」のです。
NISAの制度としての背景事情と照らし合わせれば、このようなデメリットがあることはある意味致し方ないことかも知れません。ですがそれでもと思うのならやって良いしメリットよりデメリットの方が大きいと感じるのであればやる必要はありません。どちらを選ばれるかはあなたの自由です。
でもやるからには、このようなデメリットをきちんと把握しておいて下さいね。