海外移住者は年々増え続けています。バブル期を境に、そう、30年前を起点とすれば、日本の人口は減り続けているのに海外移住者が減ったことはただの一度もありません。
バブルを境にということは、バブルによって多額の資産を築き、バブルがはじけて日本がデフレに陥り(「失われた20年」と良く言いますよね?!)、少子高齢化も含め日本に居続けることへの懐疑心が出たことも一因でしょう。
今まで住み慣れた、住み慣れたというよりそこで生まれ、そこで育ち、その国の社会制度をずっと享受して来た人が自分の国を離れて海外で移住するということはとても勇気の要ることです。
大きな資産を築いたのなら、たとえ日本に居続けることにデメリットがあっても生きていく上では特に問題もなく、少なくとも貧困層の方に比べたらとても「贅沢な悩み」であってよほどのことでない限り何も住み慣れた国を出ることはありません。
それでもメリットを感じるのは殆どが税金面でしょう。……多額のお金があっても税率は割合ですからね。
今回は、株式投資に関わる税金にクローズアップして、諸外国と比較し、上記のように移住した方が本当に有利なのかを書いていきたいと思います。
前置きです
海外に移住する理由は仕事の関係もあるでしょうし、(前々から憧れ、決めていた国へ)定年退職後の第二の人生の舞台として選ぶこともあるでしょうし、親族が海外に移住している場合もあるでしょうし様々です。
でも結局それは、転勤などの理由を除き、税金面も考慮されているはずです。たとえ憧れであってもどうしてもその国じゃないと嫌というものがない限り自ら税金面で損をする国へ行こうとは思わないからです。国家運営には当然お金が掛かり、その財源のひとつとして税金は絶対外せないのです。
日本の税制では、現在「日本に居る」かどうかの判断を、
- 国内に住所がある人は「居住者」
- 現在まで一年以上住んでいる人は「居住者」
- それ以外の人は「非居住者」
で決めています。
海外に移住した人の基準は、
- 一年未満の予定で海外にて働く予定で出国する人は「居住者」
- 一年以上海外で働く予定で出国する人は「非居住者」
としています。
国家財源として徴収するわけですから、「何をもって居住者とするか?」はきちんと法律で決められていて、一年以上海外で働くならば居住者でないと決めたのですね。
この「居住者」は、「移住者」を間違って書いているわけではありません。日本に居るかどうかの判定の際に、日本に居ることを「居住者」として上記条件でその判定を行い、それに応じて課税するかどうかを決めているのです。
あなたが日本にいて、そして上記条件で「居住者」であれば全世界の利益に所得税がかかります。日本に「居」て「住」んでいる「者」として、その所得全てに日本の税制が適用されるのです。
「居住者」なら、海外で株式投資をしてそこ(現地)で配当をもらっても、課税対象になるわけです(日本にいながら海外の口座から投資して利益を出し、その海外の口座に利益が振り込まれていても同じです)。
非居住者に対しては日本国内の仕事からの給料、日本国内の資産からの利益に対してのみ課税対象になります。ですから海外で発生した利益に関しては日本の税金は掛かりません。
このような前提で言えば、日本よりも税金面で有利な国に移住すれば、(日本からの収入には日本の所得税が掛かりますが)現地で働くことによってその地でもらう給料や日本以外に投資している株の売却益・配当、現地で加入した生命保険からの利益はその国の税金のみとなります。
日本以外は?
福祉政策で有名なデンマークは日本よりも税金が高いので今まで以上に高い税金を支払うことになります(中国も税金が高いです)。仮に株式投資に関して税金面で優遇を受けられても、それ以外の社会生活で税金が高く付くのなら意味がありませんよね?
このような国を除いては日本よりも税金が安く済むことが多く、株の売却益や配当には税金が掛からないという国もあります。
歴史的に言えば日本も冒頭のバブルの時代に入る前は株の売却益に対しては税金が掛かりませんでした。その後、売買金額(売却益ではありません。売却益でも売却損でもとにかく売買に対してという意味です)の1%が所得税になるという制度に改正されて今は売却益に対して「20%と復興税」という形になったのです(この税率に関しては『株は「売却益」や「配当金」に対して何%の税金がかかる?』に詳しく書いています)。
投資で損を出したからといって誰かが、少なくとも税金でそれをカバーしてくれるということはありません。
自分の責任で、自分のお金を使って取引しているのに「損をしたって税金で補填してくれるわけでもない、そのくせ利益が出れば課税される……おかしくないか?!」という気持ちになるのはある意味当然で、「(個人の)投資の利益に対しては税金が掛からないとするのが当然だろう?!」という考え方が対極としてあり、税金が掛からない国はこの考え方が基底にあります。
こういった「売却益に関しては課税しない」、つまり税金が掛からない国として有名なのがシンガポールと香港です。
でも、「ならシンガポールに移住した方が良いじゃん?!」と考えるのは早計です。
まず、シンガポールに住んでいても「日本の上場株などに投資すればその売却益は課税される」ということです。確かに住んでいるわけではないので住民税は課税されませんが「そもそも課税されない」わけではないのです。
上でも書いていますが、日本の仕事に対してはその報酬(給与)には日本の税金(所得税)が掛かるということも忘れてはいけません。
株式投資に関しては税金面で有利でも、住居として不動産を借りていればその費用は投資でマイナスになったとしても当然払わなくてはいけません。
他の税金との兼ね合いで考える
国によっては、贈与税や相続税が安いところがあります。上記のシンガポールだけでなくニュージーランドが有名で、アメリカにいたっては「相続税はかかっても贈与税がゼロ」という州さえあります。でもこれらは「その国の財産」に対してであって、日本にある財産の贈与や相続は除外されます。
仮にゼロになるとしても、それは『贈与する人・贈与される人、相続する人・相続される人が、「どちらも5年以上」・「海外に移住している」ことが条件』なのです。
この条件を満たさなければ、たとえ非居住者であっても日本の贈与税や相続税が適用されるのです(5年以上居住して贈与や相続を済ませ、その後に日本に戻れば、税金を掛けずに日本に戻ることが出来、これ自体は違法ではありません)。
あなたがもし辞令が出たとかで海外に赴任するのなら、この記事は赴任先で仕事の傍ら投資をする時の参考になるでしょう。
あなたがもし投資以外で海外に移住したいという強い願いがあったり日本にはいたくないという強い気持ちがあったりするのなら、海外に移住することの色々なデメリットやリスクを承知の上で日本を旅立たれることでしょう。
しかし、「投資での税制面が優遇されているから」という理由「だけで」海外移住をお望みだとしたら、それはリスクが付きまといます。
移住すれば衣食住の問題はどうしますか?仕事で移住するならある程度確保されるでしょうけど、投資のためだけに海外移住した場合、その国で雇用されるならまだしも、例えばインターネットなどで日本のサービスなどを利用して仕事を請け負い、その都合などで一時的に帰国などしたらそれは日本の税金として課税されます。
確かに売却益に税金が掛からない国もありますが、それは売却益に対してであってそれ以外の衣食住には当然お金が必要だし税金が掛かったりします。そもそも論ですが、日本株を取引すれば、あなたが「居住者」なら異論の余地なく日本の税金が掛かります。
(将来の)贈与や相続のためにと海外に行くにしてもする側とされる側が共に5年はその地に居住しなければなりません。
冒頭で触れましたが、増加し続ける移住者というのは、税金面で海外にということであれば、それは殆どが大金を持つ人・得た人でしょう。もしくはそういうことを知った上でデメリットも引き受け、長く住み続けることを前提とした人でしょう。
健康で居続けられますか?医療において、日本のように国民皆保険という国は殆どありません。医療費も高く付くことが殆どでしょう。
投資をするとして、全体の生活の一部に過ぎない投資(しかも必ずしなくてはいけないわけでもない)の税金面だけを見て移住に踏み切れますか?仮に踏み切れるとしても、移住するということは「その間全ての環境をその地に委ねる」ことに他ならないのです。
まとめ
このサイトをご覧のあなたは、多分「これから株式投資でもしてみようかな?」というお気持ちで見て下さっていると思います。
この前提が正しければ、海外での株式投資の税金面の実情を知ることが出来ても「それだけですぐに海外に移住する」というお考えはないと思います。
ゆくゆく、あなたが財をなし、それが後々の投資やその他の人生のステップで多くの税金を取られることを防ぎたくなった時にはじめて「海外移住はどうだろう?」とお考えになられると思いますし、私としてもそういう流れを望みます。